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博物誌Vol.001 蔓(からすうり)

「からすうり」が巻きつく | 髭はどうして巻きつくのだろう
髭は何故反転するのだろう | どうやって掴まえるところを探すのだろう

「からすうり」が巻きつく

からすうり / 花と実 初夏の季節、我が家の玄関前の笹の茂みの上を、蔓草が巻きひげ髭を伸ばして這っているのを見つけた。
伸ばした巻き髭には、短い枝分かれが1本しか付いていなかったので、「すずめうり(雀瓜)だろう」と思っていた。あちらこちらで笹の茎や葉に巻き付いて、ここまで登ってきたのだ。そのゼンマイ状の巻き髭の形は美しい(図1.)。後になって、真夜中にだけ咲く白いレースを拡げたような花、そして艶やかな朱色の実を見て、「からすうり(烏瓜)」だと分かった。
 私は、巻き髭がどうやって綺麗な螺旋になるのか知りたくてスケッチを始めた。


髭はどうして巻きつくのだろう Top

 巻き髭が何かに触れるのは先端近くとは限らない。髭のごくつけ根の範囲以外は、触れたところから先はそれに巻きつく。巻つく動作の途中で先が別のものに触れれば、それにも巻ついて、二つの反転ばねができる。そのとき、同じ1本のひげでも反転の方向が逆になることも起こっている。つまり、ひげの先に近い方が右巻きからはじまるか、左巻きかは決まっていない(図2(h))。自分に許された時間内に掴まえるところを見つけられなかった巻き髭は、握りこぶしのようになって悔しさを表す(図1. の左下)


髭は何故反転するのだろう Top

 私の見ていたからすうりの巻ひげでは、ばねが出来はじめるまでに12時間近くかかった。これは、情報の伝達と組織を転換する準備に必要だったのだろう。
 情報はひげがものに接している面にそって速く伝わり、ひげの断面全体に伝わるのは遅れるのではないだろうか。あるいは、はじめから速く伝わる面が決められている(例えばようえき葉腋の側)と考えてもいい(図2(d))の右下の、掴まりそこなって握りこぶしになりかかっているひげの形から見ると、「きめられている」としたほうがいいように思える)。速く伝わった面が収縮をはじめ、木質化が先行する。
 先端近くでものを掴まえた髭は、反ろうとするが、掴まえたものと自分の体の間にあるのですぐに反ることは出来ない。力が溜まってきたところで突然ばね化が始まる。ところが、一方は掴まえたもの、片方は自分の体、どちらもねじ捻ることが出来ない。その時髭が取りうるのは、途中で捻れる方向を反転させたばねの形である。反転した点を境に右巻き、左巻き同数あるから、ひげは自分の中で捻れを解消してしまう。反転の方向は最初の偶然のきっかけで決まり、どちらでも良く、事実どちらもある。


どうやって掴まえるところを探すのだろう Top

からすうり / 種子は蟷螂の頭 からすうりの巻き髭を見ていたときに、掴まえるところを探すためにとても広い範囲をサーベイしていることがわかった。いろいろのことから、それは約1時間に1回転くらいの速度で、一定の方向に円錐面を撫でるような規則的な動きだろうと予想していた。別の枝で同じ位置からスケッチをしてみた(図3(a)〜(g))
 スケッチをしている間にも枝先と巻ひげは動いてしまう。動いているところ、つまり円錐の頂点は枝先から4つ目と5つ目の節の間にある。もっとも枝の先端はまだ葉に覆われていて、節の数は正確にはわからない。要するに既に巻きついた髭の節と、その上のいま掴まえるところを探している髭が出ている節との間の部分である。それから上の茎はしなだれたまま動きについている。前の巻き髭はまだばねにはなっていない。約1時間20分で1周した。髭は直径24cmの円の範囲をサーベイしたことになるが、今回は掴まえるものに触れることは出来ず、次ぎの周回に入った。彼にはまだ持ち時間の残りはある。
 髭の先端の動きを真上から見た図にしてみると、きれいな円を描いているわけではない(図3(f))。それに、平面上の角速度が一様でなく、特に後半の180°は非常に速い。この理由は、平面図の左下方向からみた姿図で見ると良くわかる(図3(g))。髭の先端は、ちょうど馬のくら鞍の縁を回るように、2回大きな坂を上り下りしている。この枝先は、根元の方の茎とこの前に掴まえた髭が作る綱に載っているようなものである。その綱は枝先と巻き髭の重さによって容易に捻れ、また、円錐の中心軸にも傾きがあるから、大きな坂と小さな坂が出来ることになる。円錐運動を起こさせている動力は、この坂を枝先と巻き髭の重さを持ち上げる力を持っていることになる。
 ではこの力はどのようして生まれるのだろうか。からすうりの場合には左回転(反時計回り)した。いま動いている節の間で、その下の方から木質化が順次進行している。それは茎の断面の中で反時計回りに進行し、その部分が収縮・固化しながら上に進んでいると考えれば、この動きと力はそこから生まれることになる。
 つまり、植物が急速に生長するためのフレキシブルな水圧構造の段階から、より強固な支持体である木質構造に移行する間の時間を利用して、その仕組み自体を巧妙に使っているのが蔓なのではないだろうか。
 1回転が終わったときの巻き髭の先端の位置が前よりも少し高くなっているのは、木質化の進行によって茎の動く位置が上がってきたためだろう。


「時が刻むかたち - 樹木から集落まで 百の知恵双書」:奥村昭雄(著)より抜粋
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